ダさイは"餌"

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ダさイは"餌"

トモダチがいた。 生涯でただひとりだけ。 "よし、トモダチになろ!" そう言ってくれた。 願わくは  誓いの儀式を もう一度。 君の手を、僕の手に。 君の手を、  掴む。 よくある公立中学校のなんでもない廊下。 ここから話は始まります。 「…あー。おもんなっっ!!」 吠える。空(クウ)に吠える。 「しゃあないやんけ。あいつら2年やし。」 だらだら澱む慰め。 「そやで。3年にチクっても、報復されるだけや。」 「けど、なーんか、なぁっ…。」 「……。」 ふてくされて ゴロゴロ連なる少年たち。 ぶつぶつと沸く不満の呟(ツプ)。 よくある、だれでもに、 どこでもに、やってくる、 飽きるほど見慣れた光景。 けど、噴き上がる呟。 呟はむず痒くて、 呟は痛痒い。 だから、 とにかくこいつらを 消そう消そうと 繰り広げられる 無意識の行い。 赤い歪んだバケツ蹴ってみたり、置かれたまんまのロッカー殴ってみたり。 けど呟が消え去るわけない。 呟が膨らみ侵食する。 蔓延して色を変えるキモチ。 染みみたいに拡がる負のキモチ。 まだ小動物に近いこの集団。 このキモチに困り果てる。 掃き出す先を見つけたい。 「お!ダさイや。 おい、ダさイ、おるど?」 ひとりがみつけた。 餌食だ。 「おー!!ダさイ、 なにしてんねん、ダさイ。」 わらわらわらっと襲いかかる。 どどどどどっと唸る足音。 "獲物"に安堵。 おいおいおいおい、 なにしてんねん、なにしてんねんって。 "な、なんにもしてない… なんにも…してないて。" オレら待ってたんや。 な、待ってたんやろ。 待ってたんか?待ってたなっ。 かわええなぁ、可愛がったろ。 よしよし、よしよし、 "や、…やめて、やめて…。" やって、やって、か? ぎゃははは、 やったる、やったる。 ほら、生えたか?みたるわ。 脱げ脱げ、ほらほら、 "やめて…や…めて…。" ほらほらもう脱げるど。ほれ、 隠すなって、みたるんやからっ。 ぎゃははは、 点検や点検。いや診察か。 "やめて、て、お願い…いやや、いややっ…" このうさばらし、 この集団は少しも 隠しはしないので、 みんなに眺められてる。 (またやで。ほら、またやってる) (ダさイ、よう弄られてんなぁ) (しつこいなぁ、男子。) (何がそんなおもろいんかなあ?) (なあ。男子てさ、同級生のおちんことか、そんなにみたいもんなんか?) (知らん草。うちらはみとないわ、そんなもん。同級生でのうてもな。わはは。) (みても全然しょーもない。) (ほんま。アホやで男子。ほっとこ。) (ショーもな。なあ?) (キッショ…。行こ行こ。) 同級生(特に女子たち)に背を向けられて、それでもなかなか終われないイヤがらせ。 必要ないのに振り上げてしまった拳の置き所とか 流す気がなかった流れのとめかたとか それがわかる年齢は まだまだ まだまだ 先のさきのさき。 "…やめて…。やめて、" 聴こえないふり、 けど聞こえてしまうから 汚ない笑い声でかき消してみる。 お…? ひとりが気が付いた。 廊下の端で、じぶんたちを 凝視してる奴に。 凝視だ凝視。 「おーぅ?なんやヤマギシ。 …見たいんか?おし、こいこい!」 「…やめろやめろ。」 「え?なんでや。」 「…オレも、やめとく。 …な、もう行こっ。」 「え…?」 声がグッと低く小さくなる。 「あいつ、ガチマジで、アタマおかしい。」 「関わらんとこ?な?」 アタマおかしい。といわれたヤマギシ。こっそりみたその顔。 目玉がぐりぐりぎらぎら光る。 …あいつの絵、見たか? ものすご気色ワルい。 まじで呪いかけてるって。 もいちどこっそり見るヤマギシ。 目玉がぐりぐりぎらぎら光る。 …さ、さっ、イコカなっ。 そやな、いこいこ。 ほなな、ダさイ。 バイバーイ。 あっさり行ってしまう。 喰われてた餌食くんは、 そそくさとズボンあげて、 けど決して顔はあげず、 周囲に目を向けることはせず。 あわてにあわてて、 散らばった持ち物をかき集めてる。 「血…!」 「ええええっ。」 ぐりぐり目玉に急に言われて、 餌食は脅えにおののいて死にそうになってる。 「血、でてるで。肘。」 「…え、あ…、」 あわてて、隠す。 薄く血がにじんだシャツの袖。 小競り合いしてる間に、どこかで打った。 「す、擦りむいた、だけ。 …だ、だけっ…。」 逃げたい…このぐりぐり目玉から逃げたい…。 「ダさイ…!」 「えっ…えっ…えっ…」 逃げたい…! 「せんせに言うたろか?」 い、いらん、いらんから、 口のなかでモグモグそれだけ言って、 走って逃げた。 いろんなもん、落としながら。 それが一年のとき。 たぶん、 それが、ヤマギシと "はじめておうた"時。
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