セピア色の驟雨(しゅうう)

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 あの夏はとにかく暑くて最悪だった。旧校舎の教室には空調どころか扇風機すらなくて、下敷きでパタパタと仰いでいると叱られる……そんな時代だった。  夏休みの夏期講習に参加してる生徒はごく数人。ただでさえ少ない参加者が、日を追うにつれ減ってくる。最後まで残ったのが私と、隣のクラスの彼だった。  その日は自転車通学をやめて、徒歩にしていた。 『雨が降るかもしれないから、歩いていきなさい」  母は心配性で、運動音痴の私が傘をさして片手で自転車に乗ることを不安に思っていたのだと思う。  講習が終わって、暑い日差しの中をてくてくと歩く。  制服は暑い。学生鞄が重たい。滴る汗に、タオルを忘れたことを悔やんだ。 「今日は自転車じゃないの?」  後ろから声をかけられて振り向く。隣のクラスの野球部の彼が、自転車を押しながら私に話しかけたのだ。  夏期講習参加者が私と彼だけになった今、話したことがほとんどなくても互いのことは認識していた。私は彼の問いかけに返事をするでもなくぺこり、と会釈して通り過ぎようとすると、彼は更に聞いてきた。 「いつも自転車なのに、今日はなんかあんの?」 「雨が降るかもしれないから、歩きにしなさいってお母さんに言われて」 「ふうん」  彼は荷台を示した。 「途中まで一緒だろ? 乗んなよ」
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