セピア色の驟雨(しゅうう)

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 どうして思い出してしまったのか。  宅急便の配達員の、節くれだった指を見たときに、ふと学生時代の片想いを思い出したのだ。  四角い爪。細く、骨っぽくて節が目立つ指。大きな手のひら。その手が私の手を掴んだ、夏の、あの日。  「ご苦労様」  荷物を受け取ってドアを閉めると、大急ぎで押し入れを開ける。この気持ちが冷めないうちに、あの日のことを、ちゃんと思い出したい。  押し入れの奥から仕舞い込んでいた卒業アルバムを取り出す。分厚い表紙にしばし懐かしさを感じながらも、彼のことを思い出そうと記憶を辿る。確か隣のクラスで、あまり話したことはなかった。  アルバムの当該ページを開き、端から顔と名前を確認していく。辿る指先がぴたり、と止まった。  懐かしい顔。真面目そうにきゅっと結ばれた真一文字の口。  野球部だった彼は坊主頭で、それが学ランの制服と相まって、「いかにも典型的な学生」という風貌だ。  ほとんど話したことがなかった彼。なのにどうして、手をつないだんだっけ。私はゆっくりと記憶のページを繰り出した。
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