プロローグ:出撃の狼煙

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 本来であれば``霊子コンピュータ``と呼ばれるデバイスを用いてメンテナンスをしなければならないほどの損耗だが、霊子コンピュータはどうやら別位相の空間に隔離されている上に相手のセキュリティも厳重なため、今の肉体性能では干渉することすらできない。  霊子コンピュータの主導権を奪うために所持者の拠点を占拠する必要があるが、ほとんどの肉体組織が腐敗して性能が著しく低下している今、厳重なセキュリティを掻い潜り、別位相に存在する空間にアクセスするのは自殺行為でしかない。  脳殻にも破損していて処理能力も低下している。あまり無謀な行為は行えない今、情報収集と肉体組織の修復が最優先事項である。 【生体融合による肉体組織修復率、三十七パーセント。作業予想時間二十七時間】  霊子コンピュータがあれば一瞬で終わる修復作業も、性能が低下したハードウェアで行うと途方もない時間がかかる。非効率的だ。  生体融合による組織の修復は完全ではない。拠点への帰還が困難で、なおかつ肉体修復機能がなんらかの原因で機能停止状態に限った際、人間の肉体から体組織を採取して損耗部位に縫合することで、自分の肉体の一部とする簡易的な応急処置機能でしかない。  肉体性能は若干回復するが、肉体自己修復機能には及ばない。寛解こそすれ完治することは決してないのだ。  現状求められているのは肉体の自己修復機能の復元だが、その復元には壊れた脳殻の修復が必須で、脳殻の修復にはやはり霊子コンピュータによる正規のメンテナンスを要する。  つまり、結局のところ寛解状態で霊子コンピュータの所に辿り着かねばならないのだ。
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