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Platonic 1
一昔前の少女漫画では、最初の1ページ目は桜が咲き乱れる季節、遅刻寸前の女子高生がトーストをくわえてダッシュしているところから始まっていたらしい。
でも、そんなの酸素不足にならないんだろうか?
ダッシュするのに口がパンで塞がれていたら窒息するんじゃないのか?
とくに暖かい春の日は、重たいブレザーなんか纏うだけで暑苦しいだろうに、汗だくにならないのか。
実際やってみるとそんな疑問を、歴代の少女漫画ヒロインにぶつけたくなる。
太陽も不調のランナーのごとく実力を出しきれない七月初旬、金曜日の朝(本日の最高気温は三十一度だからもっと暑くなるはず)。
遅刻寸前の私は、全速力で高校へと向かっていた。
さんさんと生きとし生きる者に皆等しく降り注ぐお日様の光が、今日この瞬間ばかりは恨めしい。
スカートのポケットに入れた、鈴ストラップ付きiPhoneがチリンチリンうるさい。
暑い。
あと、息が苦しい。
汗で肌がベタベタするし、髪もきっとボサボサになっているだろう。
もうやだ、泣きたい。
そんな私の名前は、望月ひかり。
女子高生という華々しい肩書きを背負うのも今年度で二年目になる。
社会人の兄と中学生の弟がいて、お母さんはお医者さん。夜勤が多くて朝まで帰って来なかったり、夜に病院から呼び出されて仕事に行くこともしばしば。
だから、朝、唯斗兄と亮ちゃんを起こして朝ごはんをつくるのが私の日課なんだけど、今朝は目覚まし時計が電池切れで鳴らなかった。
おかげで兄妹全員で寝坊した。
朝ごはんをかきこむ暇も、強靭に外側に跳ねた寝癖を直し、私にとってデフォルトである三つ編みカチューシャに編みあげるための作業時間へとつぎ込んでしまい、今、私はこうして目玉焼きを載っけたトーストをくわえて公道を全力ダッシュする羽目になっている。
(ちなみにお父さんは、東京の外資系会社で社長秘書をしていて、あまり家には帰って来ない。でも、夫婦仲が悪いとかそういうわけではない)
私が述懐を進めつつ、全力疾走していると、クリーム色の四階建ての建物が見えてきた。
あれこそが私の目的地、かつ学校。
あの曲がり角を曲がってしまえばもうこっちのもの。
何とか間に合いそうだとパンで塞がれた口でホッと息をつく。
スピードを緩めるなどということは一切せず、角を曲がった瞬間。
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