Platonic 1

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「あいつがいないと、やっぱ飯余計美味かったな」 夕食後、ソファーに腰掛けていた亮ちゃんが不意にそんなことを言った。 手にしているのはガラケー。 きっとまたテトリスでもやっているんだろう。 弟は暇さえあればいつもテトリスをやっている。 もはや依存だと思うけど、私も中学の頃は一時期そんな感じだったから、テトリスに並々ならぬ中毒性があることはよく知っている。 そして亮ちゃんの言う「あいつ」とは言わずもがな、望月家のなかで一番ハイスペックな長兄、数年前には3K男子の称号を(ほしいまま)にしていた望月唯斗のことである。 (大企業に勤めていて高給取りだったのだが転職したことにより、「平均~やや高給」程度になった) 「まーた、そんなことばっかり言って」 私の隣で皿を泡のついたスポンジでキュッキュとこすっていたお母さんは、呆れた声を出した。 私は「何でそんなに唯斗兄嫌いなの? 頼りないから?」と濡れたコップをタオルで拭きながら訊ねる。 「そーだよ、分かってんなら聞くなよ」とガラケーから顔を上げてクイズバラエティを映したテレビに視線を、私たちには背中を向けた。 やっぱりそうなのか、と納得しかけたが、お母さんが「えー、本当はそれだけじゃないでしょー?」とからかいたそうな口振りで亮ちゃんの背中に話しかけた。 「唯斗が179センチあるのに、亮也は成長期がまだ来なくて、153センチだから唯斗が羨ましいんでしょ?」 「ちっげーよ‼︎ クソババア‼︎」 亮ちゃんが阿修羅(あしゅら)のごとき様相で振り返って、ソファーに拳を勢いよく下ろした。 いや、そんなに必死になったら肯定したも同然でしょ……。 一方で、クソババアという代名詞を当てはめられたお母さんは結構本格的に腹を立てて「親に向かってババアって何!」と厳しい口調で言い返した。 「四十代はまだ、そんなにババアじゃないから大丈夫だよ……」 フォローしたつもりが、何故か母には睨まれてしまった。 「ババアババアってうるさい子達ね。亮也が寝てる間に麻酔掛けて開腹して胃を半分くらい切除してやるから。ああ、食費が浮いて助かる」 「こえー冗談やめろよ! てかうち、金に困ったことねえだろ! いや、つーか俺だけかよ!」 「ひかりは今お皿洗うの手伝ってくれてるし、毎朝自分の分にくわえて唯斗のお弁当まで作ってくれてるしね」 「俺だって、風呂掃除とかやってんだろ! 一番何もしてねーの唯斗だろうが!」 「あの子は家にお金入れてくれるし」 「あの野郎、家事一切できねえからって賄賂(わいろ)しやがった! 金に物言わせやがって!」 賄賂では無いと思うけど。 多分、百パーセントの厚意。 まあ唯斗兄に何か家事を頼むと家電壊すわ、皿割るわの連続だし……だから手伝われても困るし……。 うん、仕方ない。
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