9.初めての夜

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「そうじゃない、準備がないからだ」 友弥はきっぱりと答える。 「準備?」 奈々はこれまた可愛く聞き返した、乱れたパジャマは直す気はないらしい。 「婚姻前だし、初めての夜に、いきなりはないだろう」 奈々は少しの間考えて友弥の杞憂がわかった。 「ああ、ゴムがないんですか?」 はっきりというなと友弥は無言で訴える。 「私は別にいいですよ? うん、とりあえず危険日ではないですから。外出しでよければ」 「あのな」 友弥は額を押さえた。いや自身も覚えはある、奈々くらいの年のころは細かいことは気にしなかったが、やはり互いの体のことを思えば、エチケットである。 「え? でも友弥さん、結構遊んでるようなこと、いってたじゃないですか」 「はああ? そんなこと、いついった?」 「え、ほら、村井さんに、こんな子供に手を出すほど困っていません、って」 ああ、と友弥も思い出す、確かにいったが、 「そんなに湾曲して捉えるなよ、困ってないだけで遊んでるとは」 「大して意味は変わらないと思いますけど」 友弥ははあ、と深い溜息を吐いた。 「──村井さんにも誤解されたか」 「まあ、いいんじゃないんですか? 友弥さんならみんな、そっかーって納得だと思いますよ?」 「嬉しくない」 「でも困ってないのに、準備はないんですね。いつもホテルとかだったんですか?」 そうだろうと奈々は勝手に思った、ここは婚約者との思い出がある場所だ。奈々が来た時に歯ブラシすらあったのだ、きっと男すら招き入れたことはないだろうと想像できる。 友弥は再度深い溜息を吐いた。
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