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「そうじゃない、準備がないからだ」
友弥はきっぱりと答える。
「準備?」
奈々はこれまた可愛く聞き返した、乱れたパジャマは直す気はないらしい。
「婚姻前だし、初めての夜に、いきなりはないだろう」
奈々は少しの間考えて友弥の杞憂がわかった。
「ああ、ゴムがないんですか?」
はっきりというなと友弥は無言で訴える。
「私は別にいいですよ? うん、とりあえず危険日ではないですから。外出しでよければ」
「あのな」
友弥は額を押さえた。いや自身も覚えはある、奈々くらいの年のころは細かいことは気にしなかったが、やはり互いの体のことを思えば、エチケットである。
「え? でも友弥さん、結構遊んでるようなこと、いってたじゃないですか」
「はああ? そんなこと、いついった?」
「え、ほら、村井さんに、こんな子供に手を出すほど困っていません、って」
ああ、と友弥も思い出す、確かにいったが、
「そんなに湾曲して捉えるなよ、困ってないだけで遊んでるとは」
「大して意味は変わらないと思いますけど」
友弥ははあ、と深い溜息を吐いた。
「──村井さんにも誤解されたか」
「まあ、いいんじゃないんですか? 友弥さんならみんな、そっかーって納得だと思いますよ?」
「嬉しくない」
「でも困ってないのに、準備はないんですね。いつもホテルとかだったんですか?」
そうだろうと奈々は勝手に思った、ここは婚約者との思い出がある場所だ。奈々が来た時に歯ブラシすらあったのだ、きっと男すら招き入れたことはないだろうと想像できる。
友弥は再度深い溜息を吐いた。
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