1.9月、家賃の支払い日

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低いパーティションで区切られた設計用のパソコンが並ぶその場所は『CADコーナー』呼ばれている、その場所から声が上げ、パーティションの上部から藤代奈々は顔を出す。 庶務の浜中を見た、浜中はうん、と頷く。奈々はCADコーナーを出て、本来の自分の席にいった、机にある電話のボタンが点滅して保留を知らせている。 (私に電話なんて) 入社して半年、空調設備の設計をする会社の営業部付属の設計を担当してる部署に配属された。営業部とは言え奈々は社内にしかいない、外部との接触がない奈々に指名の電話がかかってくることなどないはずだ。 (しかもウイハー社? なにそれ) 訳がわからないがそれでも奈々は受話器を取り上げ点滅している内線2番を押した。 「はい、藤代です」 『はい、わたくし、ウイハーの佐藤と申します』 定型句のあいさつの後、とんでもないことが耳に入ってくる。 『お仕事中に申し訳ありません、しかし水木さまと連絡が取れないのでこちらにご連絡させていただきました。当社は家賃回収の代行をしております。藤代さまがお住いのマンションの家賃が半年もの間、滞納されているのです』 「え?」 『再三の督促も無視されているので、明後日部屋を差し押さえることになりました。未払いの家賃の支払いの相談もしたいので、ぜひ確実にお会いできる日時で調整を──』 「あの、あの、あの‼︎ そんなはずありません、私、ちゃんと銀行に振り込んでます!」 饒舌に喋っていた佐藤の空気がぴくりと凍えたのがわかって、口上を邪魔をして悪かったと奈々は反省した。 『いいえ、確実に引き落としはされていません』
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