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案の定、それまでの事務的な口調から、やや怒りを含んだ声になる。
「え、そんな、そんなはず……!」
家賃の引き落としは、専用の口座からされている。結婚も視野に一緒にお金を貯めようと、悟志ふたりで月々10万ずつ振り込み、そこから家賃や光熱費も落ちている。給与の振込口座とは別だ、だから奈々は毎月きちんとそこへ手動で振り込んでいる、その明細はきちんとある。そして先日振り込んだ時も預金残高は十分あったはずだ。
『藤代さま、引き落とし名は「花田不動産」になっていますか?』
「あ、ごめんなさい、通帳の管理は、同居人の水木がやっていて」
そもそも口座を作ったのは悟志だ。
『ああ、はい、水木さま』
本当に怒った声になった。
『部屋の名義も水木さまでしたね、なので再三ご連絡はしているんですが、明日払う、今度払うと先延ばしでして。家も留守ですし、一昨日からは電話も通じなくなっております』
「そりゃ家にはいませんよ」
ふたり暮らしでふたりとも働いているのだ、昼間は家には誰もいなくて当然だ。
「え、電話も?」
『はい』
佐藤の低い返事に、奈々は背中に冷たいものが流れるの感じた。
『そんな感じで水木さまとは連絡が取れません。こちらとしては一円でも家賃を回収したいので不躾ながら藤代様にご連絡させていただきました。差し支えなければ会社まで伺いたいのですが』
それは逃がすまいという意図があるのを感じた、奈々は素直に応じる。
「あ、いえ、はい、その、来ていただくのは助かりますが、とりあえずお金を用意しないと」
『では明日、12:30に伺ってもよろしいでしょうか』
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