眠らない男・田中

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 結局その日もあまり売れなかった。夜遅く会社に戻った田中は報告書の作成に取り掛かる。最後にアパートに帰ったのはいつだろうか。アパートの部屋に敷かれた煎餅布団を懐かしく思い出す。  いかん、いかん。布団のことを思い出したら眠たくなるじゃないか。とにかくがんばれ。  田中はひとり慣れないパソコンに向き合う。そもそも使い方さえよくわかっていない。だから時間もかかる。 「おい田中! おまえ白目剥いてんじゃねえぞ!」  ウトウトしていた田中の意識を社長のドスの利いた声が呼び覚ます。いつしか夜は明けていた。デスクチェアに座った姿勢でわずかな仮眠を取っただけで田中はほとんど寝ていない。 「起きています!」 「モタモタするな。とっとと売ってこい!」 「はい!」  田中は会社を飛び出した。
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