眠らない男・田中

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「ドリンクは1時間100円で売ってます。でも、6時間だけは500円のサービス価格になってます。時間はどうしますか?」  店員は後ろの棚から『おやすみノンタイム』とラベルの貼られた小さな瓶を取り出して並べた。栄養ドリンクのような茶色い瓶だった。商品を説明するラベルにはノンタイム容量と記載があり、1時間刻みで最大6時間。瓶のサイズはどれも同じだった。欲しい睡眠時間が入るドリンクを飲めばいいのだ。 「6時間ください」  田中はもともと6時間睡眠を取って暮らしていた。  500円と引き換えに店員からドリンクを手渡される。田中は迷うことなく封を切り、ひと息で飲み干した。これで睡眠不足は解消される。もう眠らなくてもバリバリ働けるんだ。液体が胃の腑に落ちた瞬間、田中の目はよく寝たあとのようにバッチリ覚めた。なんとも便利な世の中になった。  その日から田中は徹夜で仕事をしては、毎朝コンビニに通った。家に帰らず、例のコンビニに行き、『おやすみノンタイム』を飲んだ。
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