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その2
真田は深夜に一人で机に向かっていた。
「日本の政治体制は、律令制の導入と大化の改新が重要な…。これって、日本史だし。やっと受験終わったのにまたやるのかよー」
ぼやきつつ、橋場のノートを読み返す。
「わかんねーな。でも最初の試験から失敗したくないし。困ったなー」
腕組みしながら、ボーっとしていた。
と、その時である。
背中から、バババ、バババ、とけたたましい音が聞こえてくる。何だ、この夜中に。不安になる。
しばらくすると、真田の部屋の扉を誰かが勢いよく叩く。
ガンガンガン、ガンガンガン。
「えっ、えっ。だれ、だれ」
「真田殿は、こちらであるか!」
と威勢のいい年輩風の男性の声が聞こえる。
「は、はい。さなだですけど。ど、ち、ら、さ、ま?」
と返事をする。
「真田殿がお困りとのことで参上いたした」
誰かが、扉の向こうで叫んでいる。
「えー。頼んでないし。えっ、とりあえず、話だけ聞いてみるか」
と真田は恐々と扉をそーっと開けた。
「えっ、えっ、」
まさかの光景だった。
鎧兜に身を包んだ武士らしき人がぞろぞろ十人ほど廊下に立っている。
「真田殿がお困りと聞き参上つかまつった。遅れて誠にかたじけない。なんでもお力になりますぞ。なんなりと、申しつけられよ!」
と、真田に向かって滔々と話す。
「は、はい。ありがとうございます。って何かお願いしましたか?」
真田は、何がなんだかさっぱり状況がわからない。
この現代に鎧兜って、テレビのドッキリだろうか。それとも自分が精神的にヤバい状況なのか。いやいや、そこまでは追い込まれてはいない。とすると目の前の武士たちは誰だ。
真田は状況を理解しようと必死で考えた。
「さきほど、困った、困ったと申されておったではないか。何でも助太刀いたす。」
と意気揚々だ。
「確かに。でも、なぜ私が困っていて助けに来てくれたんですか?」
謎は深まるばかりだ。
「四百五十年もの間、あの地蔵にお供えをしていただいた人は、ほとんどおりませぬ。悲しいことに地蔵のことさえ、誰も気が付かぬありさま。だが、真田殿は違った。まんじゅうまでお供えしてくださった。そしてお祈りしてくださった。」
と涙ぐみながら武士のリーダーと思われる年輩の男性が語りつづける。
「あの地蔵は室町幕府の末期、いわゆる戦国の世に我々、武田軍がこの八王子の滝山城を攻め落とそうとして無念にも敗れ去った。その時の様子を見た当時の農民たちが我々、武田軍の霊を供養するために建ててくださった地蔵である。しかし時は流れ、その戦いのことも、我々のことも、知るものがいなくなってしまい、誰にも振り向かれない地蔵になってしまった。」
真田自身も驚きである。そういえば、寮の先輩から武田軍の落武者が出るとか出ないとかという話を聞いたことを思いだした。
「その地蔵に四百五十年の時を超え、真田殿がまんじゅうを供養しお祈りをしていただいた。これは真田殿を我々、武田軍団がお守りするのは当然のことである。なあ、皆の者、そうであろう!」
「オー」
居並ぶ武士たちが声をあげる。
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