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その3
「わかりました。わかりました。でも、近所迷惑になるので、どうぞ。狭いですけど」
仕方なく真田は武士たちを部屋に通した。とは言え、六畳一間の部屋に大人十人は、さすがに狭い。ギュウギュウ詰めである。
「で、どうすればいいですかね」
真田は聞いてみた。
「なんでもお困りのことを申してくだされ。できることはどんなことでもさせていいただく。ここに武田の赤備え騎馬軍団が控えておる。」
武士のリーダーが答える。
「はぁ」
真田は、呆気にとられたままである。
「では、真田殿。まず腹ごしらえはどうであろう」
武士は問いかける。
「コンビニ弁当食べたけど。でも、せっかくなので、じゃあ、何かお願いします」
と断るのも悪いのでお願いすることにした。
「では、甲斐名物ほうとうはいかがじゃ。腹もふくらみ、あたたまる。皆の者、真田殿に美味いほうとうをご用意じゃ」
「オー」と武士たちは早速、作り始める。
「真田殿、ほかにお力になれることは何かござらぬか」
次の依頼を聞く。
「はい。じゃあ、本当に困っているのは、あさって日本政治史の試験があるんですよ。わかりやすく言うと、たとえば昔の幕府の成り立ちとか、将軍がどうだったとか少し詳しいことが、わかるようだったら教えてほしいんですけど」
と半信半疑で聞いてみた。
「幕府のことであるか。では、鎌倉幕府や室町幕府のことでよろしいか。室町幕府は延元元年、足利尊氏殿が楠木正成殿との戦いで勝利した。この戦というのがなかなか壮絶な戦でな。足利軍が…」
めちゃめちゃ詳しい。まったく期待していなかったが案外、本当に助けてくれるかもしれない。ただ詳しすぎて説明が終わらない。
「ということで、室町時代が終わるということになるのじゃ。ここから信長殿、秀吉殿が登場するのであるが、」
「あ、ほうとうできたみたいですよ」
真田が話題を変える。
「うむ、そうであった。そうであった。せっかくのほうとうじゃ。たらふくお召し上がりくだされ」
「はいはい。いただきます。あつっ。わ、うまい。さすがですね。そういえば、あなたのお名前を聞いてなかったですけど」
「拙者は、たきだ信吾じゃ」
「え、武田さんですか」
「ちがう。よく間違えられるが、た、き、だ じゃ。水が流れ落ちる滝。田んぼの田。これで滝田。じゃ。まぎらわしくてすまぬ。拙者の若い頃は信玄公にお仕えをしておった」
「えっ。すごいっすね。どんな人だったんですか。信玄さん」
「すべてに厳しい人じゃった。ただ、甲斐の国のことと甲斐の農民たちのことを、第一義にお考えになるお方じゃ。悩んで苦労されて最強の武田軍団をつくられた。まことに素晴らしいお方であった」
なんと、武田信玄に会った人のナマの感想を聞けた。なんかすごい得した気分だ。真田の勉強も調子がのってきた。
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