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その4
試験当日は初夏の気持ちよい朝となった。真田は、かなり深夜まで勉強し、眠い目をこすりながらとぼとぼと大学へ来た。
「眠い、眠い。コーヒーでも飲んで気合いれますかー」
すると、コーヒー自販機のところで寮の隣部屋の橋場に会った。
「おはよ。あ、この前、ごめんな。知り合いが夜中に突然たずねてきて、騒いで。深夜に大声出して」
真田が、先日の「武田軍団」の大騒ぎをあやまった。
「はあ。なに、なに。ずっと毎晩部屋で勉強してたけど、なんかあった?」
と橋場は不思議そうに首をひねる。
「ん。あ、あ、ならいいんだ」
どうもあの大声は聞こえなかったらしい。真田は、少しホッとした。試験時間も近かったので慌ててコーヒーを飲み干し、二人は教室へ急いだ。
大教室の一番後ろの列に座ると回答用紙が配られ教授が試験問題を黒板に書き始めた。
「えー。室町幕府の体制について、その特徴を述べよ。また、鎌倉幕府との制度上の違いを列挙して、説明しなさい、って、え、え。」
真田は驚いた。これは、あの夜中の武田軍団の滝田が説明してくれた内容じゃないか。
「あの人、まさか預言者。うっそー」
あ然としている真田の肩をポンポンとたたく人がいる。
「はいはい」
ふり向くと武田軍団の滝田がいるではないか。それも、あの時と同じ鎧兜姿である。
「真田殿、ご武運をお祈りしておる」
ニッコリほほ笑む。
「どっから入ったんですか」と真田がささやくように怒る。
「心配無用じゃ。我々は真田殿以外の者には見えんのじゃ。声も真田殿しか聞こえん」
真田もあきれ顔だ。
「試験開始まで時間あるな。では、必勝を祈願して、武田節を皆で歌うぞ。ソレ」
「ドン、ドン、ドーン」
太鼓が鳴り響く。
「♬かーいのやま やーま」
「あらー。武士軍団まで歌ってるよー。俺、知らないふりしよう。知らね、知らね」
と真田は試験を始める。武田軍団は歌い終わると、後ろから真田の様子を見守っていた。
ともかく日本政治史の初めての試験、真田の「初陣」は、大勝利に終わったのである。
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