22人が本棚に入れています
本棚に追加
ポツポツ、ザァアアア……!
激しい雨が降り出した。
動悸がする。
呼吸するたびに異臭が鼻をつく。
車内は最初からこんなに空気が悪かっただろうか。楚々とした真由香ちゃんの見た目からかけ離れていてるが、どっかに腐った野菜でもあるんじゃないか。
電話をかけた。
「もしもし」
「あ、真由香ちゃん?この車ドア開かないんだけど」
言いながら不信感を抱いた。電話の向こうはざわついている。総務部長のガラガラ声が聞こえる。
「すみません榎本係長、ちょっと私用の電話で出てきますね」と真由香ちゃんの声。
おかしい。まるで社内にいるみたいじゃないか。
さっきまで一緒だったのに。
雨の合間に雷鳴が轟く。
電話の向こうが静かになる。人気のないところに移動したらしい。
「車って……何言ってるんです。話がよくわかんないんですけど」
「何って、君の車の空調見てるんだよ。飲み物買ってくるってそのまま消えるなんて薄情だなぁ」
「何のことですか。車なら週末買い替えました。
私昼間にぶつかった後、野崎主任には会ってませんよ」
はぁ?
何の冗談だ。
「おいおい、これってドッキリか何かなの?」
「知りませんよ……あ」
彼女は何かに気づいたように言葉が止まった。
返事を待つ。俺は貧乏ゆすりをしていた。足元の感触がぶよぶよしている。
フロアマットが濡れていた。
靴の動きに合わせてぱしゃぱしゃ音がする。
浸水?まさか。
「そっか、美紀ちゃんの仕業かぁ! よかった!」
急に明るい声。
アンダーパス。
夕立。
美紀。
まさか。
「え?なんで美紀のこと知ってんの?これアレかな?俺が前に怖がらせたからその仕返しとか?ははっ」
俺の声は情けなく震え始めていた。
「あんなん怖がるわけないでしょ、知ってたんだから」
「えっ」
思考停止。
今なんて言った?
「あたしここに派遣される前に従姉妹の三周忌に出たんですよ」
「なんのはなし」
「私の従姉妹、前山美紀って言うんです。覚えてるでしょ?」
背筋がゾワっとした。
「あなたが見捨てた女の名前ですもんね、野崎主任」
最初のコメントを投稿しよう!