視線の先に

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視線の先に

 ツーツーツー。 「おいおいマジかよあの女……」  好みのタイプと思って優しくしたのにとんだイカれ女だった。  それとも、マジで美紀が真由香を(そそのか)したのか。  二年前の夏は三股か四股をかけていた頃。うっかり真面目で愛情が重いタイプの美紀と付き合ってしまった。別れを切り出したら逆上された。  頭をガシガシとかく。  バッグを探ると確かにお札とお守りがなかった。  雨が車の屋根を叩く。  美紀が死んだ頃は変なことが続いていた。いつも妙な視線を感じた。夕立の日は頭が痛んだ。5kg痩せた。やつれて眠れなくなって、ツテでお札をもらいにいった。家にもお守りはたくさんある。それでやっと平穏な生活を送れるようになった。  でも、今はない。    もうくるぶしまで水が来た。 「嘘だろ」  とにかく車を出よう。  こういうときは車のトラブルサービスとかあるだろ。いや浸水してるから110番か119番の方がいいのか。  ケータイをかけようとするが真っ暗な画面のまま電源が入らない。 「くそっ、なんなんだよ」  ダッシュボードを叩く。  車内の匂いが強くなってきた。  生臭い。  気持ち悪い。  水はあっという間に膝まで来ている。  手が滑ってケータイが水没した。  窓を叩き壊す覚悟を決めて窓を見た。  そこに、いた。  立っていた。   「びぇっ!!?」  変な悲鳴が出た。  はずみで動いた手が、水面に当たる。  ばしゃ。  ばしゃばしゃ。  ぐえっ。  ちゃぱちゃぱ。  くるしい。たすけて。  ぱちゃ。  みき、おれがわるかっ  ちゃぽん。    
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