変死

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変死

 「遅いぞ」  「すみません」  若い刑事を待って、中年の警部が立入禁止のロープを上げてくれた。野次馬も汗をぬぐっている。暑い。  「こんなところで変死っすか」  「おう、しかもすぐそこがアレだ」  警部が顎で示した先は、二年前に女性が一人亡くなったアンダーパスがあった。確かちょうど今の時期だった。歩道の隅に花束が供えられている。  「俺が赴任する前の事故でしたっけ」  「ホントに事故か怪しいもんだがな。今朝のガイシャは当時俺が話を聞いた関係者の1人だ」  「なにか関連が」  「わからん……が、嫌な予感がする」  どういうことですか、と聞いても警部は黙ったまま、コインパーキングの奥を指さした。  すでに遺体はなく、白いテープでロック版の一部分が縁取られている。倒れた人の形。  死体があったと(おぼ)しき場所を見ていると刑事はなぜだか目まいを感じた。  ロック版のあたりが濡れている、と思ったが瞬きの間に乾いた路面に戻った。  「ガイシャは野崎聡(のざきさとる)31歳。遺体は既に司法解剖に回した。俺たちはアレを見に行くぞ」  顎で示した先に、向かいのビル。  その後、コインパーキングが写っていた向かいのビルの防犯カメラの映像をチェックした。  ビルの警備員は警察の来訪に緊張しているようだった。昨日の12時からでいいですかね?と言って再生ボタンを押す。  夜になり、日が登り、犬に引っ張られた飼い主が遺体を発見したところで警部は停止ボタンを押した。呪縛に解かれたかのように警備員が立ち上がり、何事か叫びながら口元を押さえてばたばたと警備室を出て行った。  警部は「やっぱりな、嫌な予感がしたんだよ」と言う。刑事は額をぬぐった。クーラーがガンガンにきいた部屋で汗をかいていた。  「どういうことですか、この映像は一体……野崎は精神病かなにかでとち狂ってたんですかね」  「……何十年も警察やってるとな、たまにあるんだよ。説明のつかない事件が。聞き込みはするが不審死のままで終わりそうだな」    警部の予感は当たった。懸命な捜査にもかかわらず、野崎がどうしてあの場所に向かったのかすらわからず仕舞いだった。  ケータイには女の連絡先が山程あったが、変死とは関係ない者ばかりだった。  コインパーキングの使用者からは、何の証言も得られなかった。誰も野崎の存在に気づかなかったという。「そんなバカな話があるか!」と一度上に怒鳴られたが実際そうなのだ。どうしようもない。  あのアンダーパスで亡くなった女性の従姉妹が野崎と同じ会社で働いていた、とわかったときは糸口がつかめたように思ったが、彼女は事件当日ずっと内勤だった。  野崎は不審死で片付けられた。  
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