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出会い
「何してんの?」
「雨を待ってるんです」
俺は喫煙室から出たところだった。外は15時すぎ、眩しいくらいだ。今日は最高気温35度だったか。窓の外を見ている子のケツの形がいいなと思ったから話しかけた。
月曜日朝礼で紹介された派遣の子だ。なかなか可愛らしい顔立ちをしている。目の下の泣きぼくろが色っぽい。俺は素早く上から下まで眺めた。セミロングの黒髪に目がくりっと大きくて胸がそれなりでウエストが細い。合格だな。制服のスカートから伸びるふくらはぎが白くてそそられた。
その子の方も、ちらりと俺を見て目を見張ったのがわかった。俺は爽やかに笑って見せる。自分で言うのもなんだが、背は高いし顔が整っているので笑顔で話しかけて嫌がる女はいない。おかげで付き合う女は切らしたことがなかった。
「雨? 降らない方がいいんじゃないの」
「私の車、今空調壊れてるんです。雨が降れば少しは車内が涼しくなる」
「大変だね。買い替えたら?」
「車はよくわからなくて。修理と買い替えと迷っているうちに1週間すぎちゃった」
「ふうん」
「だから雨は私にとって救いなんです」
「降るといいね。じゃ」
その時はそのまま営業部のデスクに戻った。背後に視線を感じる。物足りないくらいで会話は終わらせた方がこっちを気にするはずだ。
案の定、退社前に休憩所を通ると女の子の方から話しかけてきた。カフェオレを飲んでいる。
「お疲れ様です」
「お疲れ、雨降らなかったね」
「ええ、でもそのおかげで話しかけてもらって嬉しかったです。経理部以外の人と話すことないので……」
「そうなの? 可愛いのに」
彼女は一瞬固まった。
「……えっやだ、本気にしますよ」
照れているようだ。なかなかに反応がいい。俺は心の中でにんまりと笑った。
雨を待っていた女の子は倉橋真由香と名乗った。隣に座るとふんわりと香水の甘い香りがした。
「雨にまつわる怖い話があるんだけど、聞く?」
「ええー」と、そんなに嫌がっていない様子だったので俺は「ちょっとだけだから」と話し始めた。
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