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第四話 デートと事実
「おい、鈴宮。こんなとこで何やってんだ」
「え、ああ、相崎くん。今日はお母さん達が居ないからお夕飯にお弁当でも買おうと思って」
鈴宮は下を向きながらそう言った。俺はそんな鈴宮に何となくどっかに食いに行くかと誘っていた。
「え、でも、迷惑じゃ」
「迷惑じゃねえよ。今、ちょうど暇してたんだ。暇つぶしに付き合え」
俺の言葉を聞いた鈴宮はわかったと言って誘いに乗った。
「何か食いてえものでもあるか」
「えっと、特に、ないかな」
鈴宮は緊張しているのかしどろもどろにそう言うと俯いた。
「なら、ファミレスでも行くか」
鈴宮と近くのファミレスに入り、適当に料理を頼む。そして特に話すことなく食べ終わり少しジュースを飲んでゆっくりした。
「そういや、お前はいつも絵を描いてるのか」
「え、ああ、うん。そうだよ。絵を描くことが好きなの。将来はイラストレーターになりたいんだ」
夢を話す鈴宮の顔はとても楽しそうだった。俺はそんな鈴宮に楽しそうだなと言って微笑んだ。
「相崎くんには夢はないの?」
鈴宮に聞かれて夢を思い出すことが出来なかった。昔は確かにあったはずなのに。
「ないな」
「そうなんだ。でもきっと、相崎くんにも夢は出来るよ。夢を思い描くこととかそれに向かって努力する事は誰にでも出来るし、夢を持つことは平等だと思うから」
俺の顔を見てそう話す鈴宮の目は輝いていて、今の俺にはとても眩しく写った。
「どうだかな。俺にはよくわかんねえ。それよか、ここ出たらすぐに家に帰るのか。もうちょい付き合えよ」
「あと少しだけなら。何処行くの?」
鈴宮の返事を聞いて、じゃ、ゲーセンでも行くかというと伝票を手に取った。
「待って。私の分は自分で払う」
「良い。女に払わすわけにはいかねえよ。黙って甘えてろ」
そう言って会計を済ませて二人で外に出た。ゲーセンの中に入りクレーンゲームをやる。
「相崎くんって意外に不器用なんだね」
なかなか取れないでいると鈴宮がそう言って小さく笑った。
「うるせえ。ああ、くそ。何で取れねえんだよ」
俺がいらつきながらやっていると鈴宮は頑張ってと言った。
「うるせえな、言われなくても頑張ってんだよ」
結局三千円もかけて小さなぬいぐるみを取ることが出来た。
「ほれ、やる」
やっと取ったぬいぐるみを鈴宮に渡すと鈴宮は困惑した様子でこちらを見てきた。
「いらないのか?」
「違う、ただ、せっかく取ったぬいぐるみ、私なんかが貰っても良いのかなって」
遠慮気味にそう言うと少し苦笑いをした。
「私なんかなんて事言うな。俺がお前にやりてえと思っただけなんだからよ」
俺がそう言うと鈴宮はやっとぬいぐるみを受け取った。
「あれ、祐くんじゃない。さっきは行っちゃったから寂しかったんだよ。正時くんも少し言い過ぎたとか思ってるんだから」
「言い過ぎたなんて思ってねえよ」
そんな時、藤と正時が現れて声をかけてきた。
「正時くん、駄目だよ、そんなこと言っちゃ。僕は二人のこと大好きなんだから、ちゃんと仲直りして仲良くして欲しいな」
藤がそう言うと正時はどうでも良いといった。
「それより、祐くん。その可愛い子は誰。あ、わかったあ、正時くんと仲直りしたくて見つけたおもちゃだね」
満面な笑みを浮かべて藤はそう言うと鈴宮の手を掴む。
「違う。こいつはただの同級生。ちょっと暇つぶしに付き合って貰ってただけ」
「何だ、つまんないの。僕たちは今、逃げちゃったおもちゃの代わりを探してたんだ。そうだ、その子、可愛いし、おもちゃの代わりをやって貰おうよ。せっかく捕まえたおもちゃ、さっきの正時くんと祐くんの喧嘩のせいで逃げちゃったんだから。少しは責任取ってよ」
藤は鈴宮を引き寄せ、ね、良いでしょと続けた。
「こいつは駄目。こいつはおもちゃには向かねえよ。わりいけど、他を当たってくれ」
鈴宮の顔は青ざめていて怖がっているようだった。俺は鈴宮の腕を掴み自分の方に引き寄せた。
「ええ、別に良いじゃん。その子でもおもちゃの代わりにふさわしいよう」
「おい、そいつ貸せよ。何てめえだけ良い思いしようとしてんだよ」
正時は藤をどかして睨むように俺のことを見てきた。
「うっせえな、そんなんじゃねえよ。おい、鈴宮、行くぞ」
まだ怖がっている鈴宮を連れてゲームセンターを出た。
「待てよ、話はまだ終わってねえだろ。母親殺しが」
「……え?」
鈴宮が小さな声でそう言うと俺から離れる。普通に考えたら当たり前のことでそんなことを聞かされたら怖いと思うだろう。
「俺は終わってんだよ、ほっとけよ」
俺はそれだけを言うと鈴宮の手をまた掴み駅の方に歩き出す。
「……離して」
駅のホームに着くと鈴宮が小さな声でそう言った。俺は鈴宮の手を離し少し距離を取るようにして離れた。
「あの、その、今日は悪かったな。お前に怖い思いをさせちまって。それと、さっき聞いた母親殺しの件、クラスの連中に話したければ話せよ。俺は別に構わねえから」
誤魔化すことも出来たがあえてそれはしなかった。いつかはわかってしまうことでここで嘘をついても仕方ないと思ったから。
「あと、もうお前に話しかけるようなマネはしねえから安心しろ。お前に危害を加えるようなこともしたくねえし」
俺はそう言うとその場を離れようとした。
「待って」
すると鈴宮にそう言って止められる。
「あの、別に相崎くんのこと、誰にも言わないし、相崎くんが違うと言えばそれを信じる。さっきは突然で怖かったけど、相崎くんが本当は優しいの知ってるから」
「……馬鹿じゃねえの」
鈴宮の言葉に少し微笑みながら俺はそう返して駅を後にした。その後は一人で街をうろつき適当に見つけた女の家に転がり込み泊まって次の日は学校には行かなかった。
ー続くー
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