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第五話 母親
何となく行くところもなくて正時の家に向かっていた。
「あ、祐くん。いらっしゃい。僕、祐くんのこと待ってたんだよ。祐くんにお友達が少ないように僕もお友達居ないんだからね」
藤が出迎えてくれてそう言うと微笑んだ。俺は黙ったまま正時の部屋に入り適当に腰掛ける。
「てめえ、よくまた来れたな」
正時は煙草をふかしながら漫画を読みそう言ってきた。
「んだよ、じゃ、出てく」
「待てよ。別にもうてめえと喧嘩しようって事ねえよ。藤に怒られちまったしな」
俺は小さくうぜえなと言って近くにあった漫画を手に取った。それから藤が何かを話していたがそれを軽く流して過ごしていた。
「そう言えば祐くん、祐くんのお母さんってどんな人だったの」
藤に突然そんなことを聞かれて昔のことを思い出していた。
母親は自分のことを大切にしてくれて優しくて。実の父親の虐待から守ってくれた。
そして、愛してくれた。
それなのに母親の再婚相手に会い、嫉妬を覚え、公園で涉平と言う人に自分のものにしたいなら殺してしまえば良いとナイフを渡され本当に殺めてしまった。
俺は本気で狂ったように母親のことを愛してしまっていたんだ。
「別に。普通の人だった」
母親のことを藤に話す気にはなれなくてそう言って誤魔化し、正時から煙草を一本貰った。
「ふうん、そうなんだ。てっきり、祐くんが殺しちゃうぐらいの人だから凄く酷い人なのかと思った」
藤はそう言うとDVDを再生した。それを一緒に見て過ごし、その日はそのまま正時の所に泊まった。
ー続くー
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