第一話 始まり

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第一話 始まり

過去に抱えきれない過ちを犯してしまった奴もいるだろう。それは何度償おうとも償いきれない大きなもの。 俺は幼い頃に実の父親から虐待を受け、その行為から守ってくれた実の母親を一人の女性として本気で愛していた。そして、母親を自分のものにしたいと幼いの頃に殺害してしまった。   母親の口から吐かれた赤い体液が自分の頬にかかる感触を未だに覚えている。包丁に刺さる母親の腹部の感触と手に付く赤い体液の温かさ。祐、祐と苦しそうに俺の名前を呼ぶ母親の声。興奮を覚えた。その声を聞きながらこれでお母さんは僕のものだと言った事、お母さんがいけないんだよ。お母さんが僕を愛さないからと言ったこと。全て鮮明に覚えている。   罪を犯してしまった俺は警察に補導され、気がつくとある施設に入所させられていた。   あの頃の自分は確かに狂っていた。とても正常なんかじゃなく異常だった。全て上手くいくと信じてしたことは間違いでしかなかった。   失ったものはもう、取り戻せない。命はゲームだと思い込むことで現実から逃げ出した。そうでもしないと自分が自分ではなくなってしまいそうだったから。   「相崎くん、起きなさい。授業始まるわ」   それから数年後、高校一年生になった。狂っていた昔の自分の夢を見ていた時、何処か遠くから名前を呼ぶ声が聞こえた。無理矢理目を開くとそこは白い天井が見える。ゆっくりと起き上がり声の方を見ると白衣を着た斉藤愛菜先生が立っていた。   「おはよう、愛菜ちゃん」   「こら、愛菜先生でしょ。それより凄い汗ね。また昔の夢でも見ていたのかしら?」   愛菜ちゃんはタオルを渡してくれる。それを受け取り汗を拭いていく。   愛菜ちゃんは俺の過去を知っている。今の状況も理解していて俺と接してくれている。   「もうかったるいし帰るよ」   「駄目よ、ちゃんと授業に出なくちゃ。もし、教室に行きづらいなら私が先生に頼んでプリント作って貰うから」   俺がベッドから起き上がり帰ろうとするとそう言ってとめられた。   別に教室に行きづらいわけじゃない。確かに教室にはあまり行かずに夜遊びばかりをしていた俺は、警察に補導されることもしばしばある。だから同級生達からは白い目で見られていた。   「じゃ、愛菜ちゃんが今度キスしてくれたら行くよ」   「そうね、相崎くんが高校卒業してもそう言ってくれたらしてあげても良いわ」   愛菜ちゃんに軽く言われて流されてしまう。   「ほら、とにかく教室に行きたくないわけじゃないなら早く行きなさい」   愛菜ちゃんにそう言われて保健室を追い出されてしまった。すると午後の授業が始まるチャイムが鳴る。帰ってしまおうかとも思ったが帰ると後々愛菜ちゃんに小言を言われて面倒なことになるのが目に見えていたから仕方なく教室に向かう事にした。   「……であるからして」   教室に入ると教師がこちらを見たが直ぐに顔をそらして授業に戻る。同級生達も俺のことを冷めた目で見てきたから睨み付けて自分の席に座り机に伏せる。   「おい、相崎。また斉藤先生の所に行ってたのか」   声をかけてきたのは後ろの席の佐藤蓮。こいつとは特に仲が良いわけじゃないが高校に来ている時は話ぐらいはしていた。   「まあな」   「そろそろテストだろ。お前、そんなんじゃ進級出来ないぞ。ま、俺には関係ないけど」   佐藤はそう言うと授業を聞き始める。俺は机に伏せてまた眠りについた。   「ねえ、蓮くんに祐くん。一緒に帰ろ。女の子達が帰りにカラオケに行こうって言っててさ。一緒に行こうよ」   「またか。俺は別に良いけど、相崎は行かないんじゃねえか」   眠りから覚めると佐藤と坂上が話している。   「祐くん、せっかくだし行こうよ」   「行かねえ。二人で行ってこいよ。俺は帰る」   二人を残して教室を出てる。   坂上直人は佐藤と同じで特に仲が良いというわけではなかった。ただ、坂上は佐藤と違い何処か人なつっこくて同級生達からの人気もあった。   制服のまま正時の家に向かう。荒井正時は赤津藤と共に施設に居た頃からの付き合いで俺の過去も全て知っている数少ない友人だった。   「おう、祐。上がれよ」   正時の家は母親だけの片親で正時に関心がなく、だから何となく俺は彼の家に入り浸るようになっていた。   「今、ちょうど心も来てるんだよ。藤とやってる。お前も一発やるだろ」   「ああ、そうだな」   心とは自分達が施設から出て声かけたのが出会いだった。正時と藤が心に目を付けて施設から出た今は三人の遊び相手になっていた。   「祐くん。ちょっと待っててね。今、終わるから」   「良いじゃん、一緒にやっちゃえば」   正時にそう言われて俺は藤と共に行為に参加する。事情後、心は気を失ってしまっていて、俺は二人が酒を呑む姿を見ながら色々と話をした。   「お前も呑めって」   「俺は良いよ。すぐ酔うから」   何度か呑んだことはあったがすぐに酔ってしまうからと遠慮していた。   「んじゃ、こいつを連れて外に行こうぜ。待ってろ、今、母ちゃんの財布から金持ってきてやるから」   正時はそう言うと立ち上がり母親の財布から金を取り心を叩き起こして外に出た。   「何か面白い事したいよね」   「例えば?」   繁華街に来て藤がそんなことを言い出した。   「例えば心ちゃんを使ってお金を稼ぐとか?」   「確かにそれは面白そうだな」   正時はそう言うと心に金もってそうな奴を引っかけて来いよと続ける。心は黙って頷くと金を持っていそうなスーツを着た中年のおっさんを連れてきた。
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