第1話:ドラゴンの卵を使ったオムレツ(1)

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第1話:ドラゴンの卵を使ったオムレツ(1)

 サリュ! お元気だったかしら?  もうお客様が揃ったみたいで、調理場は大忙し!  だから、ちゃっちゃと進めていきますわよー!  はじめる前に、この国のコース料理の決まりについて。  ロネア王国は、大陸のほとんどを支配してる大国よ。  言ってみれば、古代のギリシャやローマ帝国みたいなものかしら。  どこの世界でも、同じような文化があるのね。  で、このロネア王国の食文化では、ある決まりがあるの。  それは「卵で始まり、りんごで終わる」っていうお約束。  前菜は卵で、デザートにりんごってことね。  私が来たころなんか、生卵をちゅーちゅー啜ってたのよ!  王様や貴族がよ! 信じらんない蛮族だわ!  でも、どこのレストランに行っても、絶対守ってる決まりだから、一品目は卵料理にするの。  そして、たら~ん!  これがドラゴンの卵よ!  おっきいでしょ?  赤竜っていうドラゴンの卵なの。竜の種類にしちゃ小さ目だけど。  大きさは、だいたい給食で使う「大のおかず」のおなべ5個分ぐらい。重さは150kgぐらいあるわね。  ちょっと見た目はアレだけど、これがおいしいのよ。  先ずは、卵を割って中身を取り出すわ。ドラゴンの爪をつかってね。  鉄杭でも割れるんだけど、力まかせに割っちゃうと一気に全部割れちゃうの。そうしたら、中身が床にこぼれてしまうでしょ?  でもドラゴンの爪なら、ピンポイントで穴を開けられるから、この食材では必需品だわ。  それじゃあ、割ってみようかしら。今、持ってこさせるわ。 「アルフォンソ! 爪を持ってきてちょうだい!」 「ウィー、ムッシュ!」  (調理場の奥から、小柄な美少年が水牛の角ほどある爪を持ってきた)  紹介するわ、助手のアルフォンソ。手が器用で優秀な子よ。  5年前、衛兵に捕まってたところを助けてあげたの。  近衛騎士団長に、ガトーショコラを持っていったら、2つ返事でOKが出たわ。 「アンシャンテー! アルフォンソと申します」  (その少年が、コック服のすそをスカートのようにたくし上げ挨拶する)  挨拶も済んだし、始めようかしら!  じゃ、割りまぁす。 「えいっ♡」  (ティルレが小指を立てて爪を握り、その尻を木槌で叩く)  あれ? おかしいわね。いつも簡単に割れるのに。今日の卵、古いんじゃない?  (ドラゴンの卵は、鮮度が落ちると硬くなっていくのだ) 「えいっ、えいっ!」  (一向に割れる気配はない) 「ふんぬっ!」  (眉間にしわを寄せ、真っ赤な顔をして、力いっぱい木槌を振るった)  やっと割れたわ!   あとは、すこしづつ穴を大きくしていくのよ。 ◇ ――5分後――  ふぅ、50cmぐらいの穴になったかしらね。  それじゃあ、これをボウルに移し替えるわ。 「ギャルソン、卵移すから手伝ってちょうだい!」 【へい、喜んで!】  (調理場の方々から、屈強な男たちが4~5人、わらわらと集まった) 「いい? 絶対にこぼしちゃだめよ! こぼしたら、今月はお給料ないと思ってね」 【へい、喜んで!】 「アルフォンソは、木べら持ってそっちで見張ってて。私はこっち見とくから」 「ウィー、ムッシュ!」  (2人が船のオールよりも大きな木べらを持って、待ち構える) 「ヤローども、やっちゃっておしまい!」  (男たちが卵を一斉に持ち上げ、巨大なボウルへと移し替える。どろっとした白身が、ゆっくりボウルへと入っていく) 「いい調子よ、そのままゆっくり、ゆっくりね~」  (黄身のほうが重いのか、最後に残った黄身がなかなか外にでない) 「もうすこし、傾かせて! ゆっくりよ」  (すこしずつ角度をつけ、卵の中身が移動する。一定の部分まで外に出るが、そこで止まる) 「あと少しだけ、傾かせて」  (言うが早いか、黄身が一気にボウルに落下した。球体のそれは、ボウルの曲線を伝って跳ね上がる。その勢いで、半身が外に出てしまう) 「わ、危ない! アルフォンソ、キャッチよ!」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 大事なドラゴンの卵が台無しに…… まさに、ドラゴン危機一髪! はたして、運命やいかに!? お読み頂き、ありがとうございます。 評価や感想いただけると、執筆の励みになります<(_ _)>
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