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胸中でそんな罵詈雑言を浴びせられているとは思いもしないであろうその女は大して可愛くもない顔にニコニコと笑顔を貼り付けたまま『じゃあね』と去って行った。
遠くなる後ろ姿を睨むように眺めながら、堪え切れなかった舌打ちがチッと零れ落ちる。めんどくせえな、と小さな声で呟きながら手にしていたプリントに視線を落とした、その時。
『……あ、あの…』
か細い声が鼓膜を突いた。
プリントから目を離し顔を上げると、教室の中心で手持ち無沙汰に突っ立っている女がひとり。いつからそこに居たんだろう。存在感が無さ過ぎて全く気がつかなかった。
『…なにか用?』
『えっと…、それ…、手伝います』
しらっとした顔でそう尋ねる俺に、その女はもじもじとしながら尚もか細い声でそう言った。
“それ”と言いながら指で示したのは間違いなく俺が手にしているそのプリントで。
はぁ?こいつが?このなんの役にも立たなさそうなこいつが?手伝う?逆に手間が増えるだけだろ、絶対。
『いや、いいよ。俺ひとりでやるから』
『でも…大変そう、だから』
『……』
必死に取り繕った穏やかな笑みにピシリと罅が入りそうだった。どいつもこいつも、苛つかせんじゃねえよ。
『そっか。じゃあ、手伝ってもらおうかな』
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