162人が本棚に入れています
本棚に追加
これが今に至るまでの経緯だ。
俺の予想は的中。やっぱりこの女は使い物にならなかった。作業を始めてもう三十分も経つのに俺の半分も進んでいない。内心苛つきながらも気にしないように無心で手元を動かしていた矢先、いきなり告白なんてしてきやがった。
『…好き、です』
それはわざわざ人の手を止めさせてまで言いたい事だったのか。甚だ疑問だ。
珍しいものを見るような感覚で向かいに座るその女を注視していると薄れかけていた記憶が蘇ってきた。
ああ、思い出した。こいつ、理科の実験でも同じグループだったし体育祭の準備の時も同じだった。確か名前は──…
「──苑田さん」
「っ、」
「…で合ってる?名前」
俺がその名を口にすると弾かれたように顔を上げる。一応間違っていないかそう確認すれば、次はコクコクと何度も頷いた。
出席番号が近いこの女とは何かしらのグループ分けで同じになる事が多かった事を今漸く思い出した。
「苑田さんはさ、なんで俺が好きなの?」
「…え、あ、…えっと…」
こんな簡単な質問にすぐに答える事が出来ないなんて、どう見てもおつむが残念なんだろう。胸の前で手をもじもじとさせるその仕草でさえ俺の神経を逆撫でする。
苛ついていた。今に至るまでも今この瞬間も。
ずっとずっと、俺は苛ついていた。
「理科の実験の時に危ないから見てるだけでいいよって言ったから?体育祭の準備の時に重いから俺が持っていくよって綱引きの綱を運んだから?苑田さんが休んでる時のプリントを丁寧に纏めて渡したから?美術の時間でペアになって肖像画を書き合う時、一緒に組もうって俺から声を掛けたから?」
最初のコメントを投稿しよう!