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「…好き、です」
シャーぺンが紙の上を走る音に雑ざって、それは唐突に落ちてきた。
動かしていた手を止め、ゆるりと視線を上げる。向かいに座るその女は長い前髪で表情を隠すように俯いたまま微動だにしない。
俺は苛ついていた。
入りたくもなかった生徒会に入らされた挙句、それを理由にクラス委員の仕事である作業を押し付けられた。聞いたところによるとクラス委員の作業が積み重なり、文化祭までに纏めておかなければいけない資料まで手がつかないらしい。が、そんなの俺が知った事ではない。
『でね、白鳥くんにこれ頼めないかなぁって思って』
申し訳なさそうに眉を下げるのはクラス委員に抜擢された同じクラスの女子生徒。名前は覚えてないけれど、クラスの男子たちが“才色兼備”だと言っているのをよく耳にする。
『あー…うーん』
『え、ダメ?』
『まぁダメじゃないけど面倒臭いなって』
ハッキリとそう言い切れば、何故か目の前の女は目をぱちくりと瞬かせた。その表情に多少苛つきながらも『なに?』と問えば、その女はわざとらしいほどに無理矢理作った笑みを貼りつけてから開口する。
『いや、白鳥くんがそんな事を言うだなんて思わなかったから…ちょっと、ビックリしちゃって』
『……』
これでもかというほどに手を握り締めて拳を作れば、手の平に爪が食い込んだ。鈍痛がじわじわと伝う。
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