もっとふれ

10/10
前へ
/10ページ
次へ
バスから降りるともう夕暮れだった。 空にギザギザの光が走った。 雷の音が響いたかと思うと、一気に雨粒が落ちてきた。 「やっばい!マンドリン!」 間宮が、制服のおなかにマンドリンのケースをしまいこんだ。 俺もあわててそれにならう。 珍妙な恰好だけどしかたがない。 ふたりとも傘を持っていないのだ。 雨はますます強くなった。 早足で歩いている間宮の手を取った。 ひどく小さい手に俺は戸惑いながら、ぎゅっと握った。 「駅の入り口まで走ろう」 「足、大丈夫なの?」 やっぱり間宮は、俺のことを心配して走れなかったんだ。 「このくらいは平気!」 俺たちは手をつないで思いっきり走り出した。 駅に着いた時には、滝のような雨になっていた。 「雨は……好きだけど……雷はきらい」 間宮は息を切らしてうつむいた。 小さく肩をふるわせている。 明るくて頭がよくて強引で、勝ち気で心底優しいひとから、俺はもう目を離すことができなかった。 そっと間宮の肩に手を置いた。 振り払われはしなかったのにホッとした。 間宮の髪の匂いと体温があまりに近くてくらくらした。 もう少しだけ、いや、降り続いてくれ。 俺は、心の中でつぶやいた。 【完】 eeca277a-36fc-49ef-a034-d4e6d43aabbc
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加