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バスから降りるともう夕暮れだった。
空にギザギザの光が走った。
雷の音が響いたかと思うと、一気に雨粒が落ちてきた。
「やっばい!マンドリン!」
間宮が、制服のおなかにマンドリンのケースをしまいこんだ。
俺もあわててそれにならう。
珍妙な恰好だけどしかたがない。
ふたりとも傘を持っていないのだ。
雨はますます強くなった。
早足で歩いている間宮の手を取った。
ひどく小さい手に俺は戸惑いながら、ぎゅっと握った。
「駅の入り口まで走ろう」
「足、大丈夫なの?」
やっぱり間宮は、俺のことを心配して走れなかったんだ。
「このくらいは平気!」
俺たちは手をつないで思いっきり走り出した。
駅に着いた時には、滝のような雨になっていた。
「雨は……好きだけど……雷はきらい」
間宮は息を切らしてうつむいた。
小さく肩をふるわせている。
明るくて頭がよくて強引で、勝ち気で心底優しいひとから、俺はもう目を離すことができなかった。
そっと間宮の肩に手を置いた。
振り払われはしなかったのにホッとした。
間宮の髪の匂いと体温があまりに近くてくらくらした。
もう少しだけ、いや、降り続いてくれ。
俺は、心の中でつぶやいた。
【完】
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