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「でもすごいな、間宮。こんな人通りのある所で楽器が弾けるなんて。いや、俺は技術的なことはなにもわからないけどさ。素通りできなかったもんな」
小さな雨粒が次々に弾けるような、底抜けに明るいのに微かに憂いを帯びた不思議な音だった。
間宮がくすくすと笑った。
まさに抱えているマンドリンという楽器にそっくりな声だ。
「これで石井君もマンドリン部の一員だよ!」
いや待て。
今間宮はなんといった?
「そんな部活、うちの学校にあったかな?」
「部を作るのは自由なんだって!部員が五人集まらないと同好会扱いらしいけど。クラスの女子にみんな声をかけたけど、マイナーだし誰も本気にしてくれなくて。まだ部員は私と石井君の二人だよ」
「ナチュラルに俺を入れるなよ。俺、高校で部活はしないって決めてる」
「……石井君……そんなつらい家庭の事情があったなんて……」
「なにを想像したんだよ!ねえよそんなの」
「じゃ、決まりね!よろしく」
「いつもそんなに強引なのか、間宮」
「ううん。私は引っ込み思案なんだよ」
俺は、帰って辞書の引っ込み思案のページを調べ直せといいたいのをこらえた。
「楽器なんて無理だよ、俺。楽譜も読めないし」
「間違ったっていいんだよ。忘れたら歌っちゃってもいいんだし。明日の放課後、河原に集合ね!」
押し切られてしまった。
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