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三曲ほど演奏したところで一息ついた。
俺がつっかえながらも弾けるのはここまでだ。
利用者さんたちが、次々にリクエストをはじめた。
「あれだよあれ弾いてよ」
「夜の……なんだっけ」
「いや、湖のむにゃむにゃだよ、いやえーと霧だっけか?」
「らーーーりららるらーららんらん、っていうやつお願い」
間宮はにこにこ笑ってハイわかりましたよーと返事をした。
絶対わかってないと思う。
間宮が出だしを何曲か弾くと、それそれ!と返事が返ってくる。
間宮は演奏を始めたが、俺にはとても無理な曲だった。
でも、これ以上ぼーっとしているわけにもいかず、俺は歌い出した。
じいさんが風呂の中でいつもうなっている演歌がこんなところで役に立つとは。
これは思っていたよりうけた。
一緒に歌い出すおじいちゃんがいたり、次は私に歌わせてとおばあちゃんがたちあがる。
手を叩いたり、足踏みをしたり、思い思いに楽しんでいるようだ。
俺は最近では経験したことのないような高揚感を噛みしめていた。
あっという間に、決められていた時間が過ぎていた。
「マミヤちゃん、今日もありがとう!」
「にいちゃんも、よかったよう」
「またおいでよー」
これは、マミヤが日頃築いてきた人間関係のおかげだと思う。
親しげであたたかい声に見送られながら、俺たちはあらたま壮をあとにした。
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