夜もすがら

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リビングの扉を開けて、中をぐるりと確認する。 もうこれは習慣づいている事だった。 無駄に広いその一室の中でキッチンに立つ母親の姿を視界の端に捉えながら、テレビの方へと視線を向ける。 ソファで寝転がっている弟の孝太(こうた)以外には誰も居ない様だ。ホっと胸を撫で下ろす。 敢えて遅い時間に帰宅してよかったと思いながらそこでようやくリビングの中に足を踏み込み、ダイニングチェアに腰掛ける。 すぐに目の前に食器が並べられていく。 今日の夕飯は煮込みハンバーグだった。 いただきます、と小さく声に出した私が箸を手にしたのと、リビングのドアが開く音がしたのは多分ほぼ同時だった。 弾かれるように視線を向けた先、心底会いたくない人物が佇んでいた。 一気に食欲が失せてしまう。 「あら、あなた。もう仕事は終わったの?」 書斎に引き籠っていた父親がこのタイミングで降りてくるだなんて、今日は厄日なんだろうか。 「まだ残っているんだが、少し休む。紅茶を淹れてくれ」 母親にそう告げた後、視線がゆるりと此方に向けられる。 その眼球に映される度に私が消えたくて堪らなくなる事をこの人は分かっているのだろうか。 「…なんだ、お前。帰ってきたのか」 分かっていてそんな言葉を投げかけてきているのなら、寧ろその手で消してくれたらいいのにと何度思ったか分からない。
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