夜もすがら

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「あぁ、なぁんか空気悪いと思ったら舞子が居るのかぁ」 クスっと鼻から抜けるような笑みを零して、私とは似ていないぱっちり二重の瞳を向けてくる。 「もういいじゃん、舞子のことは。受験に失敗して、ただでさえ可哀想なんだからそっとしておいてあげよう?ね?」 3つ年上の姉の結子は県内でもトップレベルの進学高校に見事合格。 その学校での成績も優秀で偏差値の高い大学にも難なく入れた。そして今、医学部生の彼氏がいるらしい。 2つ年下の弟の孝太もまだ中学生だけれど成績は常に3位以内という快挙を遂げている。 このままの成績を保てれば姉が通っていた高校よりランクの高い学校に合格できるだろうと、担任からのお墨付きらしい。 異常なまでに学歴に拘る父親からしたら県内最低レベルの高校に進学した私は塵も同然なのだ。 ここにいる人たちは私を意思を持つ人間として見ていない。 ただの肉の塊だと思っている。 「…ご馳走様」 「えっ、もういいの?全然食べてないじゃない」 ガタリと立ち上がった私に母親が慌てたような声を掛けてくる。 母親はいつだって私を心配しているような目を向けてくるけれど、その目に私が映してほしいと願った事が映された事は一度もない。 パタパタと追いかけてくる母親を振り返り、 「クレープ食べたから、お腹いっぱいなの」 どうしたって届かない言葉を偽りで掻き消した。
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