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「舞子」
鉛のように重たい脚を引きずって教室に戻ると、一番に私の名前を呼んでくれたのは華凛の声だった。
「遅かったじゃん。大丈夫?」
小首を傾げながらそう問いかけてくる華凛に「うん」と答えながらぎこちなく頬を持ち上げる。
こうして華凛が話しかけてくれるのは嬉しいけれど、華凛の両端を囲むように立っているマユとミサキの視線が痛い。
2人を直視できなくて横髪で顔を隠すように俯きながら席に着く。
「あ!それだ、これ」
私が席に着くや否や、そう声を上げたのはミサキ。
ガーディガンのポケットをごそごそと探って、チャラリと音を立てながら何かを取り出した。
ゆらゆらと揺れるそれは、花をモチーフにしたキーホルダーだった。
「はい!華凛にあげる~!」
「え、いいの?」
「いいに決まってんじゃん!聞いて!これね、中のダイヤが誕生石になってんの!」
「超かわいい。やばいね」
「でっしょー!?ちなみにあたしとマユ、3人でおそろだから!」
得意げにチラつかされた2人のスマホには華凛に差し出したそれとはダイヤの色が違うキーホルダーがぶら下がっていた。
ゆらゆら、ゆらゆら。
踊るように揺れる3つのダイヤ。
眩しくて、目が沁みた。
「…3人?舞子のは?」
不思議そうに首を傾げる華凛はまた私の名前を紡ぐ。
こんな、存在価値のない私の名前を。
ピシリと空気が固まるのが分かった。それと同時にさっきまで嬉しそうな笑みを浮かべていたマユとミサキの表情も固まる。
「いや、舞子のとかいらなくね?」
ハッと蔑むような笑いと共にそんな言葉を吐き出したミサキ。
微かに眉根を寄せた華凛は「なんで?」と問う。
「だってこいつ、華凛の悪口言うんだもん」
もう随分と俯かせていた顔をバッと上げる。目をぱちぱちと瞬かせる私を、ミサキは冷笑を浮かべながら見下ろしていた。
「あたしにはマユの悪口言って、マユにはあたしの悪口言ってさぁ。挙句の果てには華凛のことまで言ってんだよ?ありえなくない?」
…嘘だ。
そんなこと一言だって言った事は無い。
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