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そう思った時にはもう遅かった。
「っう、おぇ…ぇっ」
聞くに耐えないような声と共に胃の中のモノが逆流してくるのが分かった。咄嗟に手を口に当てるも、出てこようとするそれを抑えられるわけがなかった。
「えっ、なに!?」
「吐いてる!がちで吐いてる!」
「やばいんだけど!」
手の平から溢れ出したそれがボタッ、ボタッと机を汚していく。
机だけじゃない。私の手も、腕も、制服も。
何もかもが瞬く間に胃液に塗れた汚物でどんどん汚れていく。
椅子から転げるように床へとしゃがみ込んだ私は机の下に身を隠すように蹲った。その間も絶え間なく口から嘔吐物が零れ落ちていく。
涙で滲む視界に黒く煤けた華凛の上靴が映る。
その上靴が一歩、一歩、後ずさるように私から離れていくのが見えた。
何も分からなかった。
今自分がどうなっているのか、どういう目で見られているのか、どんな風な状況になっているのか。
何も。
本当に、なんにも分からなかったのに。
「まじこいつ…ありえないんだけど」
その声が私の名前を呼んでくれる事は、もうないのだという事だけは分かった。
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