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「あんたさ、初めの方の授業で小さな声で謝った男子生徒に“聞こえない”ってキレた後に言ってたよね。相手に聞こえなければ意味がない、それは謝罪したとは言えないって」
「……」
「だったらあんたが言ったそれ、なんの意味もないよね?“伝えた”とは到底言えないよね?だってあたしには聞こえてないんだから」
華凛はお世辞にも頭が良いとは言えないが、記憶力だけは人並み以上に優れている。
そして頭の回転がとても速く、何よりとても口が達者だ。
「分かってる?あんたが言ったことだよ、これ。“センセー”はすっごく頭いいから、勿論覚えてんでしょ?」
それ故、口喧嘩で華凛に勝つのは極めて不可能に近い。
女教師はギュっと下唇を噛み締めた。それは華凛の勝利を静かに物語っていた。
私でもそれに気づいたのだから華凛が気づかない訳がない。その証拠に華凛は鼻からフっと息が抜けるような笑みを零す。
「分かったら早くどっか行ってくんない?あたし腹減ってんだけど?」
まるで蠅を払うかのように鬱陶しそうにシッシッと手で示す。そんな華凛を見下ろす女教師はグっと拳を握り締めていた。
「…あなた、そんな態度を続けていればいつかいろんな人に見放されてしまうわよ」
そんな忠告に華凛が聞く耳を持つ訳がない。寧ろ火に油を注ぐだけなのに。
「お生憎様、こんなガキに目くじら立てるどっかの年増のババアよりかは満たされてるから。ご心配なく」
…ほら、やっぱり。
私が心の中でそう呟いたと同時、何処からかクスクスと笑う声が聞こえてきた。
チラリと視線を向ければ、いつも動画アプリを見て騒いでいるグループの女子達が肩を寄せ合い、女教師を蔑む音を奏でていた。
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