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「だって華凛はみんなに好かれてるもん。たくさんの人に囲まれてて、欲しいものなんでも手に入っちゃう」
「あなたが居なくなっても華凛は悲しまない」
「華凛が居ないだけで、あなたはこんなに悲しいのにね」
うるさい。
うるさいうるさいうるさい。
反論する気力もなかった。もう何も聞きたくなくて耳を両手で塞ぐ。キツく目を閉じれば、すぐに暗闇が迎えに来てくれた。それは私を心底安心させる色だった。何色にも染まらない、黒。きっと此処が私の居場所なんだと、そう思ったのに。
「でも大丈夫。私が一緒に居てあげる」
耳を塞いでいても否応なしに入り込んできたそんな言葉に、つい反応してしまった。
ゆっくりと瞼を持ち上げれば依然として可愛いとは言えない顔つきのその子が私を見つめていた。じっと、真っ直ぐ。
「何があっても私が一緒に居てあげる」
そう言ったその子の目から、透明な雫がぽろりと零れ落ちる。
「…どうして泣いてるの?」
さっき投げかけられた言葉と同じ言葉を気づけば口にしていた。そんな私にその子はくしゃりと顔を歪めて言う、「舞子が泣いてるからだよ」と。
そこで私は自分がまた涙を流している事に気づいた。音もなく流れるそれは冷え切った頬にじりじりと焦げ付くようだった。
「舞子が泣いてるから、私も泣くの。舞子が悲しいと、私も悲しいの」
「…」
「それが友達でしょう?」
その子と私は同じタイミングで嗚咽を零した。咳をするようなその音は声にならない叫びをどうにかして出したいと藻掻いているように聞こえた。
「…あなた、名前なんていうの?」
スビズビと鼻を啜る私にその子は涙でぐちゃぐちゃになった顔で笑った。
「明音だよ」
きっとこの子が、私にできた初めての友達だった。
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