夜もすがら

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カーディガンの袖を捲り上げ、左腕をすっと前に出す。白く青筋が立つその肌には、赤黒い斑点が幾つも浮かんでいた。大きいものから、小さいものまで。 「これは…なんの痕かな?」 「ペンで抉った痕です。こうするとカミソリで手首を切るよりも出血は大分抑えられます。そのうえ痛みは倍以上になるんです」 自分の口元が緩く弧を描くのが分かった。 「私は血が見たいんじゃないんです。痛みが欲しいんです。だから切るんじゃなく、抉りました」 ああ、笑うのなんていつぶりだろう。 「分かってます、私がおかしい事なんて。全部分かってます。明音が存在しないことも、ちゃんと分かってます。分かってるんです」 息を吐く暇もないほどに言葉を並べた。 分かってる、分かってる、と何度も。 そんな私を医師は真っ直ぐに見つめながら「そうなんだね」と頷く。そして随分と相槌を打つしかしなかったその医師が徐に私に言葉を投げかけた。 「さっき質問はしないって言ったけど、ひとつだけ聞いていいかな?」 「いいですよ、なんですか?」 「君は、明音ちゃんと何をしたかったんだい?」 「……」 もし、明音が本当に居たのなら。 もし、明音が本当の友達だったなら。
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