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「すごいね、君は」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠すように俯いてハァハァと息を切らす私に、そんな言葉が降ってくる。
馬鹿にされているのだと思った。睨むような眼差しを向けたけれどその声の主はゴミを見るような目も、化け物を見るような目もしていなかった。
ただ、真っ直ぐと“私”を見据えていた。
「君は人よりも想像力が優れているんだ。架空の人物をまるで現実に居るかのように創り出せてしまうくらいには、ね」
にこりと浮かべられたその笑みに不思議と嫌悪は抱かなかった。
「例えば漫画やアニメ、小説といったものには想像力や発想力がとても重要になる。何もないところから自分の頭の中でひとつひとつ創り出していく。登場人物や台詞、ストーリーなんかをね」
「…」
「猟奇的な殺人鬼の話し、現実では有り得ないファンタジーな話し、身近に感じられる青春や恋愛を軸とした話し。種類はさまざまだけれどそのどれもに欠かせないのが発想し、想像する力だ」
「……」
「君にはそれがあるんだよ」
ゆっくりとした口調で並べられる言葉は私の鼓膜を優しく撫でる。まるで頭を撫でるように、優しく。とても優しく。
「君はおかしいんじゃない」
私の目に映っている現実が涙の膜でゆらゆらと揺れる。
「ただ、他の人よりも少し繊細で、感性が豊かなだけなんだ」
頼りなく揺れるそれは、いつかに見た、あの3つのキーホルダーを連想させた。
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