夜もすがら

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その日、学校が終わってすぐに家に帰る気になれなかった私は最寄りの駅の近くにある漫画喫茶に立ち寄った。 漫画の世界に浸っていると時間はあっという間に過ぎ去った。 満足して帰路に着いた頃には辺りはすっかり真っ暗な闇に包まれていた。 「舞子、おかえりなさい。遅かったわね、どこ行ってたの?」 玄関のドアを開けると、パタパタと廊下を叩く足音が聞こえた後に耳なじみのある声が鼓膜を突いた。 「…友達とクレープ、食べに行ってた」 にこやかな笑みを浮かべてくる母親に平然とした顔で嘘を吐けるようになったのは一体いつからだろう。 もう考える気にすらならないほど、遠い昔の事に思えた。 「そう。高校でやっと良いお友達に巡り合えたのね」 教えて欲しい。 “良いお友達”って、一体どんなものなの。 「ご飯は?食べれそう?クレープ食べたならあまりお腹は空いてないかしら?」 「…ううん。食べれる」 だってクレープなんて食べてないから。 声無き呟きは当然誰の耳にも届く事は無く、何も知らない母親はにこにこと嬉しそうな笑顔を浮かべて「早くリビングにいらっしゃいね」と背を向ける。 その背中を眺めながらいつも思う事がある。
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