夕立に恋

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「ねえ、先生。先生は周りから浮いてることになんの感情も持たないの?」 「随分失礼なことを言いますね」  テストの丸付けをしていた手を止めて、顔を上げた先生はどこか呆れた様子だった。溜息を一つつきながら、傍らに置いたマグカップに口をつけている。この暑いなかホットコーヒーを飲むなんて神経がぶっ壊れているとしか思えない。 「私は好きで第二理科室(ここ)にいますので。職員室は煩わしくて苦手なんですよ」  溜息まじりに愚痴を零すと、先生は丸付けを再開させた。確かにこの先生には、日当たり良好な職員室よりもジメジメとした第二理科室がお似合いだ。 「先生は高校生の時もそんな感じだったの?」 「そんな感じとは」 「ぼっち? 陰キャ? きょーちょーせー?がない?」 「……ああ、協調性のことですか」  一瞬、間があったのは私の言葉を脳内で漢字変換していたからみたいだ。 「それなりに楽しい高校時代を過ごしましたよ」 「本当に?」 「ええ。そうですね……今は一軍と言うんですか? そういう友人がいまして。彼のおかげですね」 「……本当にそれ、友達なの?」 「今でも連絡を取るくらいには」  疑いの目を向けるもあっさり(かわ)されてしまった。私は「そっかぁ……」と教師用の実験台に突っ伏した。向かいに座っている先生は「ご期待に添えず申し訳ないですね」と淡々としている。絶対、悪いと思ってないやつだ。現に、答案用紙の上を走るペンの音は止まらない。……ああ、今、音が変わった。きっと点数を書いたんだ。どこの誰か知らないけど、チラッと見た限り丸がいっぱいついていた。高得点だなとこの前、化学16点を叩き出した私はぼんやり思った。 「……私、どこで間違ったんだろう」  こんなはずじゃなかったのに。
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