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余計な仕事が増えたと不満を漏らしていた先生は、それでも親切に教えてくれた。南先生の方が断然イケメンだけど、教えるのは碓氷先生の方が上手なのかもしれない。「授業嫌いなんですよね」と教師としてどうなんだと思うことを言いながらも、いつもの授業よりもずっと分かりやすかった。
「先生! 先生!」
二日後の放課後、第二理科室に駆け込んだ。先生は薬品棚の前に立っていた。整理でもしていたのか手には謎の瓶を持っている。私は右手に握り締めていた答案用紙を開いて先生に突きつけた。
「40点! ギリ合格!!」
「…………」
先生は見事なまでにノーリアクションだった。そりゃ、わざわざ時間を割いてこの程度かって思うかもしれないけど、この前の16点に比べれば大幅アップだ。南先生だって「頑張ったんだな」って褒めてくれたのに。追試を受けたのは昼休みの話で、結果が分かったのはついさっきだ。誰よりもまず先生にこれを見せたかった。だから、職員室から直行してきたのに。
「なんか反応してくれても良いじゃん」
「たった二日でよくそこまで持ち直したなと感心していたんですよ」
「先生から教えてもらったこと、忘れないようにって神経使ってたんだもん」
追試が終わった今となっては何もかも頭から零れ落ちていったことは内緒だ。「そうですか」と相変わらず先生は塩対応……
「……ああ!!」
「なんですか」
「今、ちょっと笑ってた!?」
「笑ってません」
先生の顔を凝視しても、もう笑顔の欠片も見つけられなかった。微妙に笑ってた気がしたのに。追試を頑張り過ぎたせいで幻覚を見たのかもしれない。
「あとね、円が許してくれたの!」
昼休み、追試を終えて第一自習室(空き教室だ)から出ると廊下で円が待っていた。一週間以上全く口をきいてくれなかったから驚いたけど「愛理」と声をかけられた。それから「愛理、ごめんね。本当は愛理のせいじゃないって分かってたのに」と涙混じりに謝られて、化学のことなんか全部吹っ飛んでしまった。
「私と友達じゃなくなるのは寂しいし悲しいからって。……先生?」
先生は奇妙なものを見ているかのような顔をしていた。きっと、女の友情が理解できないんだ。私自身、こんなに早く円と仲直りできると思ってなかったから無理もない。ただ、これには理由があった。「まあ、本当のとこはね」とすぐ近くにある角椅子に腰掛ける。ついでに左肩に掛けていた鞄を隣の角椅子に置いた。
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