夕立に恋

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「吹っ切れたんだって。それで今は南先生が好きみたい」 「ああ、それなら暫くは安泰でしょうね」 「何? どういうこと?」 「南先生が生徒を相手にするとは到底思えませんから。だからあなたも今後は友達に協力なんて馬鹿な真似はしないことですね」 「馬鹿な真似って何よ。私はただ円に笑ってほしくて」  南先生のことに関しては納得したけど、後半は聞き流せなくて反論した。確かに余計なお世話だったのかもしれないけど、私だって中途半端な気持ちで協力していたわけじゃない。 「その協力とやらが何をどの程度なのかは知りませんが……あなたの素直なところは良いところですが、時としてそれが裏目に出るということも覚えておいた方が良いですね」 「なんか今、すごく先生っぽいこと言った?」 「この程度で先生っぽいとは……浅はかですね」 「なんなのよもう!」  普段、いずれ担任を持つのかと思うとゾッとするとか、なんで教師になったんだろうと思うようなことを言ってるから。"この程度"に特別感を見出していた。せっかくちょっと見直したところだったのにとふて腐れていると、碓氷先生を呼び出す校内放送がかかった。多分、教頭先生の声だ。先生は「どうせ面倒なことを押し付けられるだけですよ」と渋っていたけど、薬品棚に鍵をかけると第二理科室から出て行った。 「何よ、本当に……」  馬鹿だなって思ってるんだろうなとか。時々眉を(ひそ)めるのは煩いって思ってるからだよなとか。私に対して良い感情を持ってなさそうだったのに、素直なところが……なんて言い出すからビックリした。そういう風に見えてたんだって思うとなんだか落ち着かない。追試の結果を知らせたかったのは本当だけど、本当の本当はお別れするつもりで来たのに。円と仲直りした今、こんなところに来る理由なんかない。それに、そろそろ夏休みが始まるし、二学期が始まっても先生と一緒だなんてごめんだったから。色々丁度良いと思ったのに。 「先生、早く戻ってこないかな……」  喋るのに夢中で気付かなかったけど、静寂が訪れたなかで聞こえる。雨が降ることを予兆する音が。 「今、光った……!?」  思わず角椅子から立ち上がる。雷は嫌いだ。どうしよう。今すぐにでも帰った方が……いや、余計怖い。今、外に出るなんて無謀すぎる。狼狽(うろた)えている間も雷の音はだんだん近くなってくる。 「ッ!!??」  ビクッと肩を大きく揺らした。鳴ったのは雷ではなくスマホだった。でも、私のスマホではない。音がする方を探して近づいていけば、先生のスマホが実験台の上に置きっぱなしになっていた。薬品の整理をしていた先生は呼び出しを受けて、何も持たずにただ出て行ったらしい。未だにスマホは鳴っている。電話だ。恐る恐る近寄る。 「…………え?」  ヒラリと未だに手に持っていた答案用紙が床に落ちた。
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