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今日はやけに静かに思えた。
店の音楽も途絶えている。外の雨の音がかすかに店内にも届き、単調な音を繰り返すのみだ。けれどそれは心地よい。胎内回帰するかのような錯覚を覚える。
「この雨の街の外に、出ようと思ったことは?」
「外なんてないでしょう?」
カイトの言わんとしていることがわからなかった。私は自然と首をかしげ、淡々とした表情の彼を見つめる。この雨の街は閉鎖されていて、どこにも行くことなんて出来ない。選択肢にないのだ。
「僕はずっと考えていたよ。ここの外に出たなら、それはどんな世界なんだろうって」
「馬鹿ね」
「馬鹿かな」
「出られるわけがないじゃない。……で、時計の話はいつ出てくるの?」
「もう始まっている」
きっと黙って聞いていればわかるのだろう。私は茶々を入れることはやめて、カイトの言葉を待った。
「あの空をよく見てごらん」
「空……? 雨が降っているだけだわ」
「そう。雨が降っている。空の中心をよく見て」
「中心……」
中心がどこだかわからなくてうろうろと目を彷徨わせていたら、カイトが時計台を指し示した。
「あの時計台の先が、空の中心」
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