4人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
朱夏昇る
バキ、と鈍い音が鳴った。
この時期の雷は珍しいものではないけれど、それでも身体のなかには少しの高揚感が生まれる。
雷の光、大粒の雨がぶつかる音。
シンとした町が騒がしくなって、私はこの時間が好きだった。
私の家はいつも静か。
過疎化が進む田舎町の、さらに外れたところにあるこの古い一軒家は、会ったこともない祖父のものだったと言う。
その空洞に、私はいつも1人。
昼も夜も働きに出ている母とは、会うことなく1日が終わる毎日。
来客だっていない。
私の元に訪れる人なんて、1人もいない。
『わ、落ちた?』
ずっと閉まりっぱなしのカーテンを久しぶりに開いた。
家から5分程度歩いたところにある山の麓、良くは見えないがぼんやりと不自然な光が、ジッと在るように見えた。
『…なに?』
興味を持たずにはいられなかった。
こんな日は外に出るべきでは無い、と頭で分かっていても、私は長靴を履きビニール傘を片手に家を飛び出していた。
どうせ、誰も引き止めてくれる人などいない。
最初のコメントを投稿しよう!