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『朱夏…。』
「最後にこの天は貰っていくよ。雫の町を壊しはしない。」
泣き叫べば朱夏が止まってくれるなら、怒り狂えば朱夏が手に入るなら、躊躇いなく私は狂人になるけれど、無情にもこの世にはどうにも出来ないことがあるのだと知る。
だって朱夏は私の神様で、彼がこんなにも苦しそうにお別れだと言うのだ。
「…次目覚めても雫はいないんだね。」
吹き落ちる気配のない嵐も、ジグザグの稲妻も、全てが2人を引き離そうとしており、抵抗する術を私は持っていない。
ああこれが、いつか来ると思っていた「最後」なんだね。
朱夏のいない秋を、冬を、春を耐え忍んでも、求める夏は来ないのね。
「笑って。」
笑って、と朱夏は言ったが、私の顔はぐちゃぐちゃに歪んでいて、目も当てられないものだったよう思う。
大きな音とともに対岸が飲まれゆくのを、私は何も出来ずに眺めていた。
近付けば最後に彼に触れられたのかもしれないが、やはり私は向こう岸に行くことは出来なかった。
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