朱夏昇る

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ゴクリと息を飲んだ瞬間、対岸で何かが大きな風を起こし、轟轟と音をたて1本の線が空に突き上がった。 強い強い突風に、離れた私まで吹き飛ばされそうになったが、腕で身体を守って耐える。 その正体は、朱銀の___ 『龍、だったんだ…。』 街を丸ごと流してしまいそうな激しい雨に向かって天に昇る、朱銀の、龍。 あまり大きくはないが、幻みたいに美しい龍が、雨を攫うように空を舞う。 それはそれは美しく、驚異的で、激しい絵画のよう。 思わず、自分が息を止めているのも忘れ、空を見上げ続けた。 朱夏が何者かなんて、興味のないフリをしておきながら、陰でこっそり調べてたんだ、私。 だから、ちょっとだけ分かる。 御伽噺のようだけど、誰も信じてくれやしないだろうけど、雨神の使い龍だったんだね、朱夏は。 『…、』 生まれ変わったら人間に、なんていつかの朱夏は言ったけれど、きっとそれも叶わないだろう。 見せびらかすように身軽に空を舞った朱夏は、猛スピードで山の方へと駆けていく。 それに続いて、荒れ狂う空が朱夏を追うようにこの町から遠のいていった。 『…ありがとう。』 赤黒く燃え盛る奇怪な空を背景にする朱夏の姿は、私の隣にいた時の何倍も生き生きとして見えた。 朱夏が何故人の形をしていたのか、私の前に現れたのか、答え合わせをすることは叶わないが、もう2度と会うことはないのだとそれだけは分かっていた。
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