夢から覚めたはずなのに

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「……樹くん、結婚しちゃったもんね」 「そうよねぇ。もうあたし達、樹くんにどんな顔して会えばいいのか分かんないわよぉ」 オシャレなネイルをしても、頑張ってお化粧しても。 バーテンダーの樹に会うことが楽しみで生きていたのに、その彼が結婚してしまったとなると切なさしかない。 彼が結婚すると聞いてから半年ほど経過した。 最後にお店に行ってからは彼に会っていない。 それから数ヶ月して結婚相手の汐里が勤めるインテリアショップの近くを通りかかったとき、店の前に出てきていた彼女が職場のメンバーから「青島さん」と呼ばれているのが耳に飛び込んできて、現実を見たような気がしてしまったのだった。 半年もバーに行っていないのだし、樹は新婚ラブラブなのだから、自分たちのことなんてきっと忘れているに違いない。 なのに、行くかやめるか踏ん切りが付かず、迷ったあげく店に行くのをやめるという選択をするところまでが日課になってしまっている状態なのだ。 雨がパラパラと降り始めた。 横浜駅の西口は、大勢の人が行き交っている。
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