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 階段を上ると、三十年もののリノリウムの床が、徐々に光を帯びてくる。  雨がやんだのだ。  教室にはまだ電気が灯っていた。私はそっとドアを開いた。  ひゅるるっ、と風が通り抜けて、私の前髪を連れて行こうとする。 「……あ」  窓が、光り輝いていた。  厳密には、雨の粒がイルミネーションのように、太陽の健康な光を何百万個にも分け合って灯していたのだった。遠く空を遮るビル群も、電線も、家の屋根も、目の前のグランドも、雨上がりの光に満ちてきらきらと点滅していた。  そして空は青い。そしてその真ん中に、空知くんがいた。  空知くんは窓を開けて、そこから下をのぞき込んでいるみたいだった。 「空知くんっ、待ってっ」  後ろから思い切り腕を広げて空知くんの腰あたりを抱え込んだ。 「うっ、うおっ」  空知くんはバランスを崩して一旦宙に浮き、机にぶつかってガシャガシャガシャっと派手な音を立てて、尻もちをついた。 「なに、なにっ、……あ、小日向さん」 「ごめんっ、ごめんごめん、大丈夫だった?」 「大丈夫だけど……、え、てかなんで?」 「えっ、だって、今、」  空知くんがおちていきそうだったから。
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