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運動会の空知くんは、まるでレベル99の勇者だった。誰の追随も許さず、風が全部集まって空知くんの味方になったみたいに、するするっとゴールに吸い込まれていく。あの勇者が、手を挙げて意見を言う時にかみまくったり、「プリントが足りないです」の一言がどうしても言えない男子と同一人物とは、とてもじゃないけど思えなかった。
そうだ、一番初めはプリントだった。すっと風にさらわれたプリントを、空知くんは風から取り返してくれたのだ。
その時も空知くんは俊足だった。手を滑らせてあっと思った次の瞬間には、後ろからひゅん、と別の風が吹いた。新しい風の方向を追いかけると、空知くんだ。空知くんはもう私のプリントを拾い上げていたのだった。
「空知くん、ありがとう」
と私は言った。
すると空知くんは、
「え、誰だっけ」
と言った。
「あ、えーと、小日向です」
「小日向さん。あ、はい」
と言って、空知くんはプリントを返してくれた。それが最初だった。
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