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中二の秋、空知くんは陸上をやめた。足を、ケガしたらしい。詳しい事情は分からないが、しばらく松葉杖が必要だった。運動会は、ずっと座って見ていた。「空知が走らないなら終わったな〜」なんてみんな残念がって、空知くんはいつも通り笑っていて、切なかった。まるで卒業式のような運動会だった。
空知くんが空を知ったのは、それからだ。
雨の日は、足のケガをしたところがずきずきと痛む。痛くて、なんで、と空を見上げる。見上げれば雨雲。雨が降る。というしくみだそうだ。これは本人が友達にそう言っているのを、横で盗み聞きしたので確かである。
空知くんは、つらいだろうな、と思った。雨が降るたびに思い出すのだから。自分が、もうレベル99の勇者にはなれないことを。陸上というフィールドでは。
陸上をやめても、空知くんは走る。体育の時。追いかけっこをする時。学校に遅れそうな時。
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