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「あっそう、小日向さん。大丈夫? 雨宿りする?」 「ううん、大丈夫」 「……じゃ、気をつけて」 「うん、また明日ね」 「また明日」  空知くんは真顔で笑った。  しばらく歩くと、急にきらきらと日光が広がって、雨が止んだ。  私は傘を閉じて、空知くんの家の方を振り返った。すると、空知くんの家の向こうに虹がかかった。大雨の分だけ、大きな虹だ。虹が出ている間、町はハッピーエンドの様相を呈する。虹だけは人生の辛さを知らぬふりして、ただ単に甘い。  傘に入れてあげたことがきっかけで、空知くんは私が隣の席に座っていることに気づいたらしかった。 「消しゴム、貸して」とか「プリント足りないって、言ってくれない」とか、空知くんは私に話しかけてくれた。空知くんは私にとってスーパースターだったので、もちろん全ては空知くんの思いのままなのだった。  窓際の席だから、空知くんは黒板なんか見ずに窓の外ばかり見ている。期末テストが終わったというのに、外は雨だ。雨が降ると、私は空知くんが心配になる。足は痛くないだろうか。心は、しぼんでないだろうか。  三者面談を前に、進路希望の用紙を提出することになっていた。
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